「食券機を使わないとね、売り上げを誤魔化すことができるんですよ。」

中小企業の社長さんとお話しているとき、そんな発言を聞いてビックリしました。
この社長さんは吉野家のような外食産業をやっている方で、この人の店も、食券を事前に買うシステムではなく、カウンターで店員に頼むシステムでした。そこで食券を採用しないのは何故かという話になり、吉野家が食券を使わないのは挨拶を大切にしたいかららしい、ということを話していたときの発言なんですが。

「食券機を使わないとね、売り上げを誤魔化すことができるんですよ。
例えば、商品を100個売るとするでしょう。そのとき97個しか売ってないことにして、3個分は従業員の懐に入れちゃうんですよ、レジを通さずに。そうやって従業員はちょっとした小遣い稼ぎができるわけ。
食券機を使うとそういうことができない。記録が残っちゃうからね。
んで、そんなことを黙認すると、売り上げが落ちるかっていうと、そうでもない。そういう従業員は120個売ってくれるようになるから問題無いんです」

「まぁね、大体抜かれてるな、というのは分かりますよ。その時に私がすることは、抜かれてる分のお金をポケットマネーからレジに入れることですね。
外から見たら、きちんと決算した上で私がお小遣いあげた形になるでしょ。それでいいんですよ。
部下がズルやってるのを黙認しておいて、バレたら部下の首を切るってのはあまり好きじゃない」

細かい所は覚えていませんが、大体こんな感じでした。
倫理的にどうなのよ、と思うことは多かったです。品行方正に働いている従業員に小遣いをあげ、誤魔化す従業員は罰する、信賞必罰の方が理に叶っていると思います。ズルをした社員はどんどんズルをするようになるんじゃないか、と思います。
でも、2つ目のコメントを聞いて、この社長さんは締めるところと締めないところを見極められる人なのかもしれない、と思いました。少なくとも従業員はやる気を出して働いているし、財務もうまく回っている。この会社はこのままでは大きくならないかもしれない、と思いながらも、この会社はこれでいいのかもしれない、とも思ったのです。


締めるべきところと緩めるところ。その見極めは僕には難しいです。
いっそのこと全てルールで縛ってしまい、そこからの論理で物事を動かす方が好きですし、楽です。でも、それはただ責任を逃れているだけなのかもしれません。正しいことをやってきた、と。締めることと緩めることのバランスがとれ、同時に緩めたことの責任が取れるようになることが、人の上に立つのに重要なことなのかもしれません。